AIはどのようにリテールを変えるか?

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ChatGPTがリリースされて、世の中のAIに対する評価が変わりました。自然言語というインターフェースを手に入れたAIとの対話は、一見人間と変わらなく感じることがあるくらいに、進化しているからです。

OpenAIが2022年11月に公開したChatGPTは、公開からわずか2ヶ月でユーザー数が1億人に達するほど急速に拡大しました。そしてLLM(大規模言語モデル:Large Language Models)は自然言語によりコミュニケーション可能なAIを筆頭に、飛躍的に精度が向上しています。

今回はAIがリテールやコマースに及ぼす影響を考え、その未来について想定できることを書いてみたいと思います。

AIの進化をダイジェスト

AIと機械学習の領域はずっと大きい期待と技術的限界の狭間の中でも着実に成長をしてきていました。

2011年10月4日、AppleははiPhone 4Sと共に音声アシスタント「Siri」を発表しました。この発表は、Steave Jobsが亡くなる前日のことでした。Siriにユーザーがデバイスに話しかけることで、アラームを設定したりメッセージに返信したりする機能を提供しました。当時は音声でやりとりできるAIということで、新鮮だった記憶があります。当時としては先進的な技術でした。

2014年にはAmazonがスマートスピーカー「Amazon Echo」の発売と同時に音声アシスタントの「Alexa」を公開。GoogleはDeepMindを買収し、2015年にDeepMindのAlphaGoが初めて人間のプロの囲碁選手に勝利したことは大きく話題になりました。2016年にGoogleがGoogleアシスタントを発表され、個人的にはAIというとGoogleが技術的なリードをしているという認識でした。

AIの急速な進化が始まる

ただChatGPTの登場は、AIがもたらす変化は人間の生活や働き方など、あらゆる点を根本的に変える可能性を感じさせました。これまでAIは人間が十分コントロールできると考えていた専門家でさえ、考えを変えるほどインパクトがある急激な進化でした。

現時点でGPT-4は、GPT-3と比較して、より人間に近い自然言語処理の進歩が見られ、一般知識と共に問題解決能力や画像を読み取り、論理的に説明できるマルチモーダルモデルです。2,200億個のパラメータを有し、25,000字までの入力が可能で、文章、画像、音声などを理解し、文章として出力します。現在はMicrosoftのBingに導入され、今後はOffice製品やTeamsにも統合されいています。

一方、Googleは2023年5月に日本語対応させたBARDをリリース。Google Workspaceやその他のツールとの連携を進めています。またMetaも2023年内には商用のLLMをリリースすることを発表しており、Amazonも同様にAWS上で利用できるLLMを発表しています。Appleについては開発を進めていることは匂わせながらも静観する姿勢を見せています。

LLMにおける課題

しかし、現時点ではAIはまだ完全な理解や意味論的理解という点で多くの課題を抱えています。

文脈を理解することや微妙なニュアンスやメタファー、皮肉といった言語の側面を理解するには、まだ時間を要すると考えられます。

また、AIの判断はしばしば「ブラックボックス」のため、その過程が人間にとって不透明な場合があります。この透明性の欠如は、AIの誤った判断が深刻な結果を招く可能性があるため問題となります。そして、AIの技術が進化に対して、倫理的なガイドラインや法律の策定が追いついていないという課題もあります。

リテールが抱える課題

一方でリテール業界が抱える慢性的で今後向き合わなければならない課題があります。

「当たり前」を求められる水準が高い

リテールなどの実店舗は、特にスーパーなどでは、常に地域の多種多様な人を受け入れ、24時間365日滞りなく安定運営されていることが「当たり前」に求められる業態です。求められる期待値の水準が高く、当然のように柔軟な対応が求められます。多くのビジネスの業態がある中で、それは企業やブランドにとって相当な努力を必要とすることです。つまり人材に対する負荷が相当かかるものであり、人材不足になりやすい業種でもあります。

社会情勢の影響を受けやすい

特に経済の動きがダイレクトに反映されるのがリテールです。最近ですと、卵の値段の高騰など、物価高の影響による「値上げ」や在庫不足による「購買制限」などのように、消費者が一番ストレスを感じる場所なのかもしれません。

コロナ禍の際には「来店」が制限されたり、人件費や人材不足、材料、エネルギー、不動産の値上がりなど、社会のあらゆる課題と実店舗は対処する必要があります。

競争激化により差異化が困難

情報流通の加速により、ブランドや企業のサービスは簡単に真似されやすくなりました。例えばeコマース業界にいて「送料無料」というのは当時は画期的なサービスでしたが、多くのブランドが導入することにより差別化要因ではなくなりました。

デジタル化の加速とグローバル経済により、多くのカテゴリーで新規参入が容易になり、リテール業界の競争はより激化しています。多くの商品やビジネスモデルはコピーされることを覚悟する必要があり、新しい商品を開発しても似たような商品がどんどん市場に生まれてきて陳腐化までの時間が短くなっています。

AIが解決するリテールの課題

未来のリテールショップ

この先、10年でどのようにAIはリテールの課題を解決していくのでしょうか。

パーソナライズ

現在の多様な消費者のニーズに応えることには現状では限界があります。AIがあらゆる場面に入ってくる際に最終的に目指すことは、消費者一人一人へのパーソナライズです。現在インターネットで検索したり、SNSで表示されるタイムラインが個々にパーソナライズされているように、オフラインの店舗でもパーソナライズされた体験を届けることに行き着くと考えられます。

消費者の「当たり前」をよりシームレスに、ストレスなく購入から配送までの体験を創造することがAIを導入する大きな目的になります。

24時間/365日対応のカスタマーサポート

ChatGPTにより一番の可能性を高めたのが、この顧客対応の自動化です。特にGPT-4になり格段に表現が滑らかになり、一定の分野であれば人間と遜色ない受け応えができるようになりました。これによりリテールは24時間365日、消費者からの問い合わせに対応できることになります。

もちろん全ての対応をAIに任せるということにはならないかもしれませんが、チャットボットや電話などにより、現時点でも製品に関するFAQページに記載できるような回答事例を用いて、正しい答えを提示する、というようなことにおいては十分対応可能な範囲にあるように感じます。

メリットはもちろん消費者側にもあります。いつでもサポートを受けられます。人間のサポートと異なり即座に回答を得られます。深夜などでも朝を待たずに、すぐ知りたいことが知れるので、消費者のユーザー体験は向上するでしょう。

クレーム対応に神対応できるAI

苦情やクレームへの回答は、時間とストレス負荷がかかる業務です。カスタマーサポートのメンタルヘルス問題は大きな課題です。適切に相手の話を聞きながら、こちらのスタンスを理解してもらえるような関係性を作ることは、かなり属人的な能力です。

しかしAIはとても辛抱強く、まるで悟りの境地にいるかのようにクレームに対する無難な対応が可能です。消費者の無理に思えるオーダーや不満の声に対しても、相手の話を聞き、感情に寄り添う姿勢を見せながら、相手の怒りを抑え懐柔させることができます。AIは目的を達成するために忍耐強く、相手の求める言葉や表現をするのが観察されています。

カスタマーサポートはオンライン/オフラインにおいても、AIによるアシスタントによる自動化が見込まれています。このカスタマーサポートでの苦情やクレーム、会話自体がビジネスやサービス改善の鍵になるので、そのデータ化から分析レポートまでをどのようにスピーディーに適切に担当者に伝えられるかがDXの鍵になると思います。

クレーム対応もAIが行うことにより、人間がやるべきカスタマーサポートの形も変化していくでしょう。

業務の自動化

AIにより一部の業務を自動化することで、人材の負担を軽減し、24時間365日滞りなく安定運営を行うことが可能となります。たとえば、価格変更や在庫管理などのERP活動、商品の分類などの業務は自動化することが可能です​。

AIが実現すること

AIとマシンラーニングを活用することで、組織が生成する大量のデータから有用な洞察を得ることが可能となります。これにより、経済の動向や物価高、在庫状況など、社会情勢の変化に迅速に対応することが可能となります。また、AIモデルは物流、価格設定、店舗のレイアウトなど、多様な領域に対する動的な変更を提案することが可能です

AIが実現すること

顧客体験の個別化を通じて競争力を維持し、差別化を達成することが可能です。AIが推奨する商品やサービスを顧客にパーソナライズすることで、ビジネスの売上を増加させ、より多くの顧客を引き付けることが可能です​2​。また、AIを活用したバーチャル試着サービスは、顧客に自分が選んだ商品がどのように見えるかを視覚化することを可能にします。これにより、ブランドや商品の体験がよりパーソナライズされ、顧客の購買意欲を高めることができます​3​。

人はリプレイスされていくのか?

AIやロボットの進化の話になると、常に「人はいらなくなるのか?」という議論になりがちです。もちろん人間がやらなくてもいい業務が増えるのは確かです。しかしそれ以上に人間でないとできないこともあるのです。

実際に全てAIで管理しようとすると現時点では多くの問題が発生します。実際に一時期、中国ではコンビニなどの店舗の無人化を目指した多くのスタートアップが登場しましたが、事業成長の伸びに鈍化が見られるようです。また中国の無人コンビニにおいては、接客に人材を配置するようにして顧客満足度を上げようとしているという動きも見られました。自動化できることはAIに頼りながら、より人間しかできないことにシフトしながら、私たちはAIを活用していくのだと思います。

日本のリテール業界の場合、それぞれの立場の違いゆえに経営サイドのやりたい事がうまく進められない、DX化などが現場浸透しないという状況をよく目にします。しかしリテール業界における日本人のポジティブな側面として、意見の対立があっても「お客さまのため」という視点では、真剣に向き合っている方が多いと思います。

この「お客さまのため」という姿勢はそれこそが顧客視点であり、消費者が求めていることではないかと思います。これからDXによりいろんなサービスがコモディティ化しても、とてもそのような情熱は大切だと思いますし、顧客を中心としたサービスはプライスレスの価値があります。

参考記事:

ChatGPT時代の生成AIは、小売業のビジネスをどう変えるのか?
The global artificial intelligence in retail market size
LLMが変える、ユーザインターフェースの未来
【徹底解説】GPTとは? BERTから最新のChatGPTまでの流れを解説

※本記事では一部でChatGPT、Midjourney、DALL-E3などの生成AIを活用して作成しています。

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