「売らない」からこそ売れる?経済的合理性を超えた「リアルな場」の価値

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D2Cブランドがリアル店舗に参入するのはなぜか?

最近のニュースで、丸井グループが商品を仕入れて売る「百貨店モデル」からテナント収入を軸とする「SC(ショッピングセンター)モデル」への転換を図り、業績が伸びているというニュースがありました。
参考:7年間で3000億円の利益が消えた…「いつ潰れてもおかしくなかった」丸井のV字回復戦略とは?
その中では新たな動きとして、ネット販売を主体とするD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが、「顧客エンゲージメント」の場として、リアル店舗で体験型のショールームを運営し、ネット販促につなげる需要が増えている、ということです。
D2Cブランドの先駆けFABRIC TOKYOは、丸井と資本業務提携をして店舗にはスーツなどの完成品の商品を置かず、スタッフは生地の見本からネット注文できるよう顧客へのコンサルティングと採寸に特化しています。ネットにつなぐための「売らない店舗」というわけです。実際に成約率は通常の売り場の2倍だといいます、丸井にとっては今までの接客ノウハウを生かせることと、FABRIC TOKYOにとってもユーザーに対して、従来ネットだけではわかりにくい生地の質感を伝えたり、実際のスタッフと話せて安心して購入を促せるため、実店舗がネットの新規ユーザーの獲得につながっているというわけです。
このように近年のD2Cブランドに対して、彼らが持っていない接客や店舗運営のノウハウと、体験やコミュケーションなどのリアルな場を提供するという、新たな活路はまさに「売らないからこそ売れる」という形を体現しています。
このように人はより体験にお金を払うようになっています。ものがあふれる時代、広告のようにロジカルにターゲットされたものより、そこにあるストーリーや印象に残るものに対して価値を見出しています。

Francfrancに水玉のソファが展示されている理由

面白いと思った話で、Francfrancの店舗では水玉のソファをよく置いているという話があって、実際のところ水玉のソファ自体が売れるわけではないそうですが、なぜか置いているというのです。一時期、売れないから店舗から撤去したところ、店舗全体の売上が下がったということです。そして水玉のソファのディスプレイを戻したところ、売上が上がったということで、理由はわからないけど、水玉のソファがあることによって店舗全体の売上が上がるということで、以降全店舗で水玉ソファを配置しているということでした。
水玉のソファ自体は売れないわけであって、そこに置いておく合理性はないです。また水玉のソファを置いておくとなぜ売れるかも解明されているわけではありません。おそらく水玉のソファ自体がFrancfrancを印象付けるブランディングの一部として機能していて、来店者との何かのPublic Relationを築いているのでしょう。
同じような話で、サイゼリアではイカスミのパスタを置いているのですが、それはほとんど売れないそうです。だけど常にメニューに掲載しています。イタリアン料理を提供するサイゼリアとしてメニューに「イカスミパスタ」があるだけで、来客者はサイゼリアはイタリアン料理の店だと安心するのだと言います。
このように、Francfrancの水玉のソファやサイゼリアの「イカスミのパスタ」も、それだけを見ると売上もないですし、そこに残しておく経済的な合理性がないかもしれません、それがあることにより店舗全体、企業全体の売上が上がるというのは、面白いですね。

「リアルな場」がキーになる理由


ロジックなら巷のコンサルタントは確かに優秀かもしれないですが、実際はロジックの積み上げではビジネスは成立しません。経営においても感覚的に「こちらの方がいいと思う」というような一見ロジカルではない判断が大きな結果を作る場合があります。Francfrancやサイゼリアの例のように、ユーザーは理性的というより「感覚的」な好き嫌いを基準に行動するからです。
ブランドも二極化しています。今年度過去最高の企業価値になっているルイヴィトンのように圧倒的に強いブランドもあれば、バーニーズ・ニューヨークのように破産報道があるブランドもあります。長年のブランドさえそのブランドを保つことが難しくなってきているのです。ブランドとは常にコンセプトを市場に伝え続けることですが、今はそれが難しくなっています。マスメディアやマス広告で一方的に企業の伝えたい情報を伝えられていた時代とは違います。デバイスもプラットフォームも分散していて、スマホ上ではアプリがユーザーの可処分時間を奪い合い情報過多になっています。だからこそオンラインではないリアル店舗に価値が生まれるのだと思います。ユーザーとリアルにコミュニケーションをとり、ブランドを体験してもらうことがまたオンラインにつながるのです。
繰り返すとユーザーが価値と感じるのはリアルな体験でありストーリーです。4C/4Pをこねくり回してターゲティングするような机上のブランディングではなく、ブランドコンセプトとユーザーインサイトの接点を地道に作っていくフィジカルな活動が求められます。小さな企業や地方の活路は、ブランド体験やメッセージを印象的に伝えるために「リアルな場」をキラーコンテンツ化していくことが大事ではないかと思います。

まとめ

オンラインからオフラインへ、新たな価値づくりが必要だと思います。常に感覚を磨き世界の動きや進化に敏感でありながら、ブランドコンセプトに向き合うことが長期的な企業価値の向上に貢献するのです。そして売上や経済的合理性だけでは、成功は生まれないというのも学びの一つです。

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