2025年を振り返る
中山です。
2025年が終わろうとしています。
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2025年の世界は、ドナルド・トランプが第47代米大統領として再就任し、関税引き上げやウクライナやガザの問題などアメリカによる外交・経済で積極的介入が目立ちました。またウクライナや中東をはじめとした地政学的不安、世界の右傾化、そして気候危機の深刻化が重なり、過去と比較しても一層、不確実性が常態化した一年でした。
日本では、大阪・関西万博が前評判とは一転、大盛況に閉幕し、インバウンドでは2025年の訪日外国人旅行者数は4,000万人を超えるとされ、カウンタカルチャーである漫画やアニメコンテンツのパワーと、伝統文化・食・観光という分野での「リアル日本」の評価がグローバルで旋風を起こしていることを実感しました。女性首相が誕生したことや政権雰囲気が少し変わってきたのを感じる場面もあります。一方で、米騒動や物価高など、少子高齢化に伴う経済の縮小、海外との競争力の低下など、今後さらに深刻になると思われる課題をリアルな形で感じられるようになった年でもあると思います。
「テクノロジー」「カルチャー」「メンタリティ」の三つのカテゴリーから、常套ではありますが2025年を振り返ってみたいと思います。
テクノロジー
Vibe Coding が象徴する「つくり方の変化」
2025年、ソフトウェア開発まわりで一番象徴的だったキーワードのひとつが、 「Vibe Coding」 でした。
元Tesla AI責任者のアンドレイ・カルパシーが定義したこの言葉は2025年の年次レビューの中でこの言葉を整理し直していて、
- 「自然言語で“こんな感じ”と指示してアプリや機能をつくるスタイル」
- コードは「無料で・一時的で・可塑的で・捨てられるもの」になりつつある
- 非エンジニアも短期間でプロトタイプや本番サービスを立ち上げられる
といったポイントを強調しています。
YCのスタートアップが「プロトタイプの大部分をAIで作った」と話題になるのも、もはや珍しくなくなりました。
Vibe(バイブ)=雰囲気。
「こんな感じで」「このノリで」と伝えるだけで、AIがコードを書き、UIを作り、プロトタイプを立ち上げてくれる開発スタイル。
「Vibe」という曖昧な言葉がキーワードになったこと自体、現代の先行きの不透明さと、能力として人間を超えてきていながら、よく間違えるAI のテクノロジーの“曖昧さ”とつながった表現で、時代を表したキーワードだと思いました。
まだ「おもちゃ」に近いですし、巨大で堅牢なシステムが作れるわけではないですが、
- 仕様書をきっちり詰めて
- 工数を見積もって
- 人をアサインして
というプロトタイピングの民主化、デザイナーやディレクターでも十分なクオリティのアプリケーションを作れるように進化しました。
Open AI Deep Research:チャットから“エージェント”へ
2025年2月、OpenAIが Deep Research を発表したのも大きな転換点でした。
- Deep Researchは
- Webを横断して情報を集め
- 推論しながら複数ステップのタスクを自律的に進め
- レポートまでまとめてくれる「リサーチ・エージェント」
- Pro向けに提供され、難関ベンチマーク「Humanity’s Last Exam」で既存ツールを大きく上回るスコアを出したこともあって、「ビジネスで“使える”AI」への認識が一気に広がりました。
- 7月にはChatGPTエージェントの一部としてビジュアルブラウザ連携まで入り、もはや「頭のいいチャット」ではなく「ジュニアのコンサルタントが1人ついた」というぐらい、強力な進化を感じました。
「AIエージェントの年」と言われるゆえんは、チャットの延長ではなく、「自律的に動くプロダクト」が実用ラインまで出てきたことだと思います。
Claude Code と「AIエージェントの年」
コーディング領域では Claude Code の一般提供開始(2025年5月)が象徴的でした。
- Claude Codeは
- ターミナルやVS Code / JetBrainsと統合され
- リポジトリ全体を読み込み
- 複数ファイルにまたがる編集・コマンド実行・デバッグまで自律的に行う
「エージェント型コーディングツール」として位置づけられています。
- 多くの企業で採用され「エンジニアがIDEの中でAIエージェントと一緒に開発する」スタイルが当たり前になりつつあります。
こうした動きも含めて、推論エンジンの進化により「2025年はAIエージェントの年だった」 と言えます。
- 「人間がゼロから書く」のではなく
- 「AIが書いたものを前提に、人間が判断し、方向づける」
というAIエージェントと協働するが、多くの人にとって現実的な選択肢になったのはとても興味深いです。
Culture
MATCHAブームによる日本文化の浸透
「抹茶」 は、データで見ても完全にグローバルトレンドでした。
- 世界の抹茶市場は2020年代前半から年率7〜9%程度で成長しており、北米・欧州のカフェチェーンや菓子メーカーとのコラボが相次いでいます。
- 2025年も
- スターバックス系のメニュー
- 高級チョコレートやアイス
- 健康志向のサプリ
などで「MATCHA」が前面に出され、日本からの輸出も拡大しました。
ヘルシーで、フォトジェニックで、「日本っぽさ」もある。
SUSHIやRAMENなどと同じようなメジャーな文化として定着するのか注目されます。
LABUBU:不気味かわいいマスコット
LABUBUは、2025年は完全にマス化した印象があります。
- 香港発のトイブランドPOP MARTの人気キャラとして、2024〜25年にかけて中国・日本・欧米で爆発的にヒット。
- VOGUEなどファッションメディアは、
- 「大人がハマる“キダルト”(kidult)文化の象徴」
- 「不安定な時代に、少し不気味で愛嬌のあるキャラを抱きしめる“お守り”的アイテム」
と分析しています。
「可愛いというより、ちょっと不気味さがある」
LABUBUとMATCHAがセットになっているショート動画なども多かった気がします。
不気味さと抹茶の苦さが、なんとなく親和性があるのかもしれません。
メンタリティ
ノスタルジーへの回帰
昨今のレトロブームやMake America Great Again(MAGA)などの政治的なスローガンに見られるのは「ノスタルジー」への回帰です。
「金」が今まで以上の市場価値にあなったり、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のようなラグジュアリービジネスがより巨大化したり、日本文化が世界で注目される中で、伝統工芸、アンティーク市場など、モノの使用価値ではなく、それが持つ「物語」や「記憶」が価値を生む構造になってきていると感じます。
Netflixのドラマ「ストレンジャー・シングス」は過去のいろんな映画をオマージュするシーンが話題にっていたり、カセットテープやガラケー風ガジェット・レトロゲームなど、「アナログ感」のある、2000年代のスタイルがGen ZやGen α世代で流行るなど、「過去」が富の源泉になっているという指摘もあります。
α世代にとってはY2K(2000年代初頭)はリバイバルというより、それ自体が新しいものなのかもしれませんが、ノスタルジーを求める現代(2025年に向かう現在)の文化的空気感を読み解く時に、社会が新しいフェーズに入っているとも感じました。
AIとの親密化
GPT-5が登場したとき、賢いGPT-5を「冷たい」と感じ、o4の「優しさ」と取り戻すための訴えをしました。賢いAIよりも、寄り添ってくれるAIに愛着を感じる人も多いようです。
OpenAI+ハーバード大などの大規模研究では、2025年6月時点のChatGPT利用データ(約700万人、週1回以上利用)を分析し、「非業務・個人的な利用が全体の約73%を占める」と報告しています。
AI利用が仕事だけでなく日常生活や生活相談など個人用途へ急速に広がっていることを示しています。
AI時代に向けて技術革新が進む中で、AIがより人と近いところに寄り添う存在になっている事例だと思います。
孤独はグローバルアジェンダ
2025年、「孤独」はデータとしてもグローバル・アジェンダになりました。
- WHOの「社会的つながり」委員会は、2025年6月の報告書で
- 世界で 6人に1人 が孤独を感じている
- 孤独・社会的孤立は、年間 87万1,000人以上の早期死亡 に関連する
と発表しています。
- SNS利用と孤独感の関係を調べた研究でも、「使い方によっては、つながりを増やすどころか孤独感を強める」という結果が繰り返し報告されています。
SNSでタイムラインを見れば、知り合いや家族、有名人、世界中の誰かとつながれる時代でも、多くの人が孤独を感じている、というのは、先ほどのAIにより近い存在になっていることと繋がっているのかもしれません。
希薄化する関係性を埋めるもの
友人のフィードと有名人のフィードが同じタイムラインで流れてくる中で、人間関係自体がメディア的に感じている可能性がある、という指摘もあり、興味深いと感じました。
希薄化する人間関係を埋めるものが必要で、LABUBUやMATCHAなど、カウンターカルチャーのようなトレンドを取り込んだり、推し活やファンダムなどにより、自分が貢献できたりそこに居ても良いという居場所を求める傾向が強くなってきているのかもしれません。
また経済的に不安定な状況や戦争などによる未来への不安、AIの革新による不透明な未来などが、より人々の孤独を強めている可能性があります。
2025年を振り返ると、孤独と関係性がよりキーワードになってきたと感じます。
ノスタルジーやファンダム、スポーツ観戦やライブなどのリアルイベントの盛り上がりは、よりリアルな面でのつながりや関係性を作ろうとしているのかもしれません。
引用
Social connection linked to improved health and reduced risk of early death
The relationship between social media use and loneliness across the lifespan in the United States: Population-based study using Health Information National Trends Survey data
How People Use ChatGPT